このページの要点
- 英文契約書は、表題・当事者、前文、定義、本体、一般条項、署名・別紙の順に並ぶのが一般的。別紙に重要な条件が集まっていることがある。
- shall は義務、may は権利・許可、努力義務は表現の強さで読む。ただし契約書ごとに定義で別の使い方がある。
- 完全合意、表明保証、補償、責任制限、不可抗力、通知などの一般条項は、有事に効く。何を決める条項かを知って読む。
- 日本語版と英語版があるときは、優先する版を一つに決め、金額・期限・定義語を完全に一致させる。
結論:英文の契約書も、読む順番と見るべき箇所は日本語の契約書と大きく変わりません
海外の相手から英語の契約書案が届くと、全文を逐語で訳そうとして行き詰まる、という場面は少なくありません。しかし、英文契約書にも、日本語の契約書と同じ「誰が、誰に、何を、いつ、いくらで、どんな条件で、問題が起きたらどうするか」という骨組みがあります。この骨組みを先に押さえて、そのうえで各条項の文言を読むと、読む負担がかなり下がります。
ただし、英文契約書には、日本語の契約書とは書き方の約束事が違う部分があります。助動詞の使い分け(shall、may、will など)、「完全合意」「表明保証」「補償」「責任制限」といった一般条項の置き方、定義語の使い方、日本語版と英語版の優先関係の書き方などです。これらは法律の条文ではなく、実務でよく見られる書き方の慣行です。ですので、このページは、条文の解説ではなく、「実務でよく見られる例として」の読み方の見取り図として書いています。
もう一つ、お断りしておくことがあります。英語で書かれた条項が日本法の下でどのような効果をもつかは、その契約の準拠法と、日本語に置き換えたときの意味によって変わります。このページは、英文契約書の「作成」や「翻訳」を目的とするものではなく、示された案をどの順番で読むかの整理にとどめています。準拠法の仕組みは準拠法の選び方で、管轄と仲裁は国際的な管轄の合意の書き方と仲裁条項の書き方で、それぞれ整理しています。
読み方の二つの軸
軸1:構造で読む
契約書のどの部分が何を決めているかを、前文・定義・本体・一般条項・署名・別紙の順に見分ける。
- まず目次と定義を読む
- 取引の条件(本体)を日本語でメモする
- 一般条項は、自社に不利な方向がないかだけを見る
- 別紙(Exhibit、Schedule)に条件が集まっていないか確認する
軸2:言葉の強さで読む
義務なのか、許可なのか、努力なのか、予定なのか。助動詞と修飾語で、拘束の強さが決まる。
- shall と may の違いを区別する
- 努力義務の表現の強弱を見る
- 例外(provided that、except)を見落とさない
- 「含むがこれに限られない」の範囲を確認する
この二つの軸で、英文の契約書案の多くの部分は見通せます。残りは、個別の取引に固有の条件の確認です。
英文契約書の標準的な構造と、各部分の役割
英文契約書は、国や分野によって細部は違いますが、一般に次のような構成になっています。日本語の契約書の「前文・本文・後文・署名」とだいたい対応しています。
英文契約書の標準的な並び(実務でよく見られる例)
日本語の契約書と違い、前文の WHEREAS 条項に権利義務を書かない扱いが多い一方、別紙に重要な条件が集まっていることがあります。別紙まで読み切ることが大切です。
構造を押さえる意味は、契約書の中で「どこに何が書いてあるはず」という予測が立つことにあります。たとえば、価格が本体にも別紙にもなければ、支払条件が決まっていないことが分かります。定義に「機密情報」の語がないのに、秘密保持の条項があれば、何が機密かが曖昧になります。このように、構造から欠落を見つけることが、英文契約書を読む最初の作業です。
助動詞の読み方:shall・may・will・must など
英語の契約書では、義務や権利を表す助動詞の選び方が、契約上の意味を左右します。日本語では「〜するものとする」「〜することができる」「〜しなければならない」などの言い回しで書き分ける部分です。以下は、実務でよく見られる使い分けの一例であり、契約書ごとに定義や解釈条項で別の使い方が定められていることがあります。
助動詞・表現の一般的な使い分け(実務でよく見られる例)
| 表現 | 一般的な意味 | 日本語で近い言い回し | 注意点 |
|---|---|---|---|
| shall | 義務を課す(〜しなければならない) | 〜するものとする | 契約書での義務の表現として最も一般的。ただし、一部の契約書では must を使う |
| shall not | 禁止 | 〜してはならない | 禁止の強さは shall と同じ。例外の有無(except、unless)を確認 |
| must | 義務(強い)または条件 | 〜しなければならない | shall と混在する契約書では、使い分けの意図を確認する |
| may | 権利・許可(〜してよい) | 〜することができる | 義務ではないので、しなくても違反にならない。権利を行使する期限の定めがあるかも見る |
| will | 予定・意思表示、または義務 | 〜する | 契約書によっては義務として使われるが、予定にとどまる読み方もできる。曖昧さが残りやすい |
| should | 推奨・期待 | 〜するのが望ましい | 義務ではないと読まれることが多い。義務にしたい項目に使われていないか確認 |
| is entitled to / has the right to | 権利を有する | 〜する権利を有する | 権利の範囲と、行使の方法・期間を確認する |
努力義務の表現にも注意が必要です。「best efforts」「reasonable efforts」「commercially reasonable efforts」「endeavor to」などは、日本語では「最善の努力」「合理的な努力」と訳されますが、英文の契約書の中での強さの順番は、契約書や準拠法によって読み方が異なることがあります。どの語を使うかで、結果の保証を求めているのか、手段を尽くせばよいのか、が変わります。日本語版が併記される場合は、同じ語に同じ訳語が当てられているかも確認します。
修飾語と例外にも注意します。「provided that」「subject to」「except as」「unless」「notwithstanding」などは、条項の例外や優先順位を定める語です。たとえば「Notwithstanding anything to the contrary」とあれば、その条項が他の条項に優先する意味になります。「including, without limitation」は「〜を含むがこれに限られない」の意味で、例示であることを示します。「including」だけの場合に、限定列挙と読まれるかどうかは、契約書全体の書き方によって議論になりやすい点です。
一般条項の見取り図:何を決めている条項か
英文契約書の終盤にまとめて置かれる一般条項(Boilerplate)は、細かい文言が多く、飛ばして読みたくなる部分です。しかし、有事に効いてくる条項が多いため、何を決める条項なのかを知っておくことが大切です。以下の表は、各条項の一般的な意味の見取り図です。条項の具体的な書き方や効果は、契約書の文言と準拠法によって異なります。
主な一般条項と、確認の視点
| 条項名(英語) | 決めていること | 確認の視点 |
|---|---|---|
| Entire Agreement(完全合意) | 契約締結前の口頭や書面での合意・やり取りは、この契約書に取って代わられる | 営業担当が口頭で約束した条件は、契約書に書かれていなければ主張できなくなる可能性がある。別紙や注文書も契約の一部かを確認 |
| Representations and Warranties(表明保証) | 一定の事実が真実であることを、一方の当事者が表明し、保証する | 民法に同名の制度があるわけではなく、契約でどう定めたかで効果が決まる。違反したときの責任(補償、解除)と一緒に読む |
| Indemnification(補償) | 一定の損害・請求について、一方が他方に補償する義務 | 対象の範囲、上限、手続(通知、防御の主導権)。日本の損害賠償の枠組みと同じではない場合がある |
| Limitation of Liability(責任制限) | 責任の総額の上限、間接損害・逸失利益の排除 | 自社が負う責任と、相手が負う責任の両方に上限が適用されているか。故意・重過失の除外があるか |
| Force Majeure(不可抗力) | 当事者の支配を超える事由で履行できないときの免責 | 輸出入規制、制裁、パンデミックなどが含まれるか。通知の期限、長期化したときの解除権 |
| Notices(通知) | 通知の方法、宛先、到達の時期 | 言語、宛先の変更方法、電子メールの扱い。到達の推定のルール |
| Severability(分離可能性) | 一部の条項が無効でも、残りは有効 | 無効とされた条項の代わりに、近い内容を有効にする旨の定めがあるか |
| Waiver(権利不放棄) | 権利を行使しなかったことが、権利の放棄とみなされない | 黙示の放棄を避ける意味。書面でなければ放棄できない旨の定めか |
| Assignment(譲渡) | 契約上の地位や権利義務の譲渡の制限 | 相手の承諾が必要か。合併・事業譲渡の場合の扱い |
| Survival(存続) | 契約終了後も効力が続く条項 | 秘密保持、責任制限、紛争解決などが列挙されているか |
| Governing Law / Dispute Resolution | 準拠法と紛争解決 | 準拠法・管轄・仲裁の組合せが意図したものか(前のページ参照) |
| Language(言語) | 正本の言語、翻訳の扱い | 日本語版と英語版の優先関係。次の節で説明 |
日本語版と英語版があるとき:優先関係の書き方
海外の相手との契約書で、日本語版と英語版の両方を作ることは少なくありません。このとき、どちらを正本(法的に優先する版)とするかを書いておかないと、版ごとの意味の違いが紛争の争点になります。
典型的な書き方には、次の三通りがあります。第一は、どちらか一方のみを正本とする書き方です。もう一方は「参考のための翻訳」とします。第二は、両方を正本とし、食い違ったときは、特定の版が優先する書き方です。第三は、両方を等しく正本とし、食い違ったときは協議する書き方ですが、この場合、協議が整わないと解釈が確定しません。海外の相手と取引する場合、相手が読める版を正本にすることを求められることが多い点は、最初の交渉の論点になります。
条項例言語の条項(一般的な例)
- 本契約は、英語および日本語で作成する。両者の間に解釈の相違があるときは、英語版が優先する。
- 本契約に関連する通知、請求、仲裁手続(または訴訟手続)の言語は、英語とする。ただし、証拠として提出する書類が日本語であるときは、当事者は、相手方の請求により、その英訳を提出する。
- 翻訳に要する費用は、翻訳を求めた当事者の負担とする。
どちらの版を優先するかは、紛争の言語、相手の読解力、自社の確認体制を見て決める事項です。ここでは項目の構成を示しています。
書き方の例(一般的な例) 版の優先関係
優先関係
理由版ごとに意味が違っていたとき、どちらが契約内容になるかが争点になる。
訳語の統一
理由金額や期限の誤差は、翻訳ミスの問題ではなく、契約内容の食い違いの問題になる。
通知・手続の言語
理由言語を決めておかないと、翻訳費用と時間が一方に偏る。
日本の契約書とは書き方が違う、または意味が違う概念
英文契約書に特有の概念を、日本語の契約書の感覚で読むと、意味を取り違えることがあります。以下は、取り違えやすい代表的な点です。いずれも、日本法の下でどのような効果をもつかは、準拠法と契約書全体の書き方によります。
確認の問いと理由読み違えやすい点と、その理由
「Entire Agreement」があると、事前のメールや口頭の約束はどう扱われるか。
日本語の契約書でも「完全合意」条項はありますが、英文契約書では、条項に「この契約書に含まれない約束には拘束されない」と明記されることが多い。営業段階の約束を契約に取り込むなら、別紙や本文に書く必要がある。
「Representations and Warranties」は、日本の契約不適合責任と同じか。
民法には、売買の目的物が契約の内容に適合しないときの買主の追完請求などが定められています(民法562条)。民法566条は、種類・品質の不適合について、知った時から1年以内の通知を求めます(売主が悪意・重過失のときを除く)。国際物品売買に条約が適用される場合は、条約の規律によります。一方、英文契約書の表明保証は、契約で定めた事実が真実でなかったときの責任の仕組みで、期間や救済も契約で定める。準拠法が日本法でも、契約で別に定められているなら、その内容が基本になる。
「Indemnify」は「賠償する」と訳してよいか。
補償は、第三者からの請求や一定の損害を、一方が負担する義務を指すことが多く、通常の債務不履行による損害賠償(民法415条)とは対象や手続が違う場合がある。訳語だけで判断せず、対象、上限、手続を読む。
「Consequential damages」の排除は、日本法でいう何を排除するのか。
間接的な損害や逸失利益などを、契約で責任の対象から外す定め。日本法の「通常損害」「特別損害」の区別と完全には一致しないため、どの損害が対象になるかを具体的に確認する。
「Best efforts」と書いてあると、結果を保証したことになるか。
努力義務は、結果を保証するものではないと読まれるのが一般的だが、強さの読み方は契約書ごとに異なる。結果を求めたい項目は、数値や期限で書く。
「Time is of the essence」は、日本語の契約書のどの言い回しにあたるか。
期限の厳守を強く求める表現として使われ、日本語の契約書では「期限を厳守する」と書く場面にあたる。語の持つ意味は準拠法に左右されるため、そのまま訳して済ませない。
これらの点は、条文の解釈ではなく、読むときの注意点です。具体的な効果は、契約書全体と準拠法で判断されます。
翻訳で意味が変わる箇所を見つける
英文を日本語に直すとき、また日本語で書いた条項を英語にするとき、意味が変わってしまう箇所には一定の傾向があります。契約書の読み手として、次の箇所を見つけることが、読み違いを減らす近道です。
- 「または」と「および」:英語の and / or は、どちらにも読める。条項の意味が変わる場所では、「A または B のいずれか」「A および B の両方」と書き分けられているか確認する。
- 期間の数え方:「within 30 days」は、起算日が契約書で定義されているか。日本語の「以内」「以降」「超えない」とは数え方が違う場合がある。
- 「days」の意味:営業日(Business Days)か暦日か。営業日の場合、どこの国の祝日を基準にするか。
- 金額と通貨:数字の区切り(カンマ・ピリオド)と通貨の記号。税込・税別の扱い。
- 「shall」と「will」の混在:同じ契約書で、義務の強さが条項ごとに違う書き方になっていないか。
- 固有名詞と定義語:日本語の社名・部署名・商品名の英語表記が統一されているか。
読み終えた後は、日本語で要点をまとめた一覧表を作ると、抜けが見つかります。たとえば、当事者、目的、期間、価格、支払条件、引渡し、検査、保証、責任の上限、解除、準拠法、管轄・仲裁、言語、通知先を、日本語の一覧にします。一覧にして空欄が出たところが、契約書の中で曖昧な箇所です。
英文契約書案を受け取ったときの読む順番
- 表題・当事者・日付:当事者の名称と所在地、締結日(Effective Date)に誤りがないか。
- 定義:契約書全体で使われる定義語を、日本語で一覧にする。
- 取引の中身:価格、数量、引渡し、検査、支払を日本語でまとめる。別紙も含める。
- 責任まわり:保証、補償、責任制限、不可抗力、解除を読む。自社にだけ不利な方向がないか。
- 紛争まわり:準拠法、管轄または仲裁、言語、通知を読み、組合せを確認する(全体のチェックの順番)。
- 署名まわり:署名者の肩書きと権限、署名日、電子署名の可否(契約の締結のページ)。
- 別紙と添付:別紙が本文の一部として扱われるか、優先順位(本文と別紙が食い違うとき)が書かれているか。
起きがちなこと
英文契約書まわりで起きがちなこと
- 全文を逐語訳しようとして時間を使い、一般条項に隠れた責任制限や完全合意の条項を見落とす。
- 日本語版と英語版で金額・期限・定義語が食い違い、優先関係も書かれていない。
- 営業段階で口頭やメールで約束した条件が、完全合意の条項により契約から外れていた。
- 「shall」と「may」を取り違え、権利のつもりの条項が義務になっている、またはその逆になっている。
- 別紙(仕様・価格)を確認せずに署名し、本文と別紙の食い違いが後から分かる。
- 英語の書式をそのまま使い、日本の取引慣行(検査期間、納品書、請求書)と合わない条件が入っている。
英文契約書は、文言を逐語で読むものではなく、骨組みで読み、言葉の強さで確かめるものです。そのうえで、管轄・準拠法・仲裁・言語の組合せを確認し、日本の取引実務に合わない条件がないかを確かめます。取引の型ごとの骨組みは海外取引の型の選び方で整理しています。
よくあるご質問
英文契約書は、全文を日本語に訳さないと署名できませんか。
全文の訳があるほうが確認しやすいのは確かですが、訳すことが目的ではなく、契約の中身を理解して判断することが目的です。定義、取引条件、別紙、責任まわり、紛争まわりを日本語で一覧にして確認する方法もあります。ただし、訳文と原文が食い違うおそれがあるため、どちらが正本かを確認してから使います。
shall と may は、どう違いますか。
実務でよく見られる使い方では、shall は義務、may は権利や許可を表します。ただし、契約書によっては must、will など別の語を義務に使い、定義や解釈条項で使い分けを定めていることがあります。契約書の冒頭付近にある解釈条項を確認します。
完全合意(Entire Agreement)の条項があると、どうなりますか。
契約書に記載のない、締結前の口頭やメールのやり取りは、契約内容として主張しにくくなります。約束した条件を契約の内容にしたいときは、本文または別紙に書き込む必要があります。具体的な効果は、条項の文言と準拠法によって変わります。
日本語版と英語版が食い違ったときは、どちらが優先しますか。
契約書に優先関係が書かれていれば、それに従うのが基本です。書かれていないと、どちらが契約内容かが争点になります。優先する版を1つに決め、金額・期限・定義語を完全に一致させることが基本です。
英文契約書の「表明保証」は、日本の契約不適合責任と同じですか。
同じではありません。民法562条以下の契約不適合責任は、売買の目的物が契約の内容に適合しないときの買主の権利を定めています。民法566条は、種類・品質の不適合について、知った時から1年以内の通知を求めます(売主が悪意・重過失のときを除く)。国際物品売買に条約が適用される場合は、条約の規律によります。表明保証は、契約で定めた事実が真実でなかった場合の責任の仕組みで、期間や救済は契約で定めます。準拠法が日本法でも、契約で定めがあればその定めが基本になります。
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