このページの要点
- 外国判決が日本で効力をもつ要件は民事訴訟法118条の4つ。日本で執行するには民事執行法24条の執行判決が必要で、裁判の当否は調査されない。
- 日本の判決が外国で効力をもつかは、その国の法による。確認できないときは、仲裁などを検討する。
- 仲裁判断は確定判決と同一の効力をもち、執行決定を得て執行できる(仲裁法45条・46条)。拒否事由は限られ、内容の当否は原則として審査されない。
- 相手の財産の所在国から逆算して、管轄・仲裁を選び、保全処分、前払い、保証などの備えを契約に入れる。
結論:判決や仲裁判断を得ることと、相手の財産から回収できることは別の問題です
海外の会社との取引で代金が支払われないとき、日本の裁判所で勝訴判決を得れば解決する、と考えがちです。しかし、判決は「請求が認められる」ことを公に確定させる文書にすぎず、実際に回収するには、相手の財産に対して強制執行をしなければなりません。そして、相手の財産が外国にある場合、日本の判決は、そのままでは外国で執行できません。
ここに、国際的な契約の設計で、管轄や仲裁の条項が重要になる理由があります。日本の裁判所で勝てる契約であっても、相手の財産が外国にあり、その国で日本の判決が承認・執行されなければ、回収できないからです。逆に、相手の国の裁判所で判決を取れば、その国での執行は容易でも、自国で戦う負担が大きくなります。仲裁判断は、多くの国で承認・執行される仕組みがあり、その点が国際取引で選ばれる理由の一つです。
このページでは、①外国の判決が日本でどう扱われるか(民事訴訟法118条、民事執行法24条・22条)、②日本の判決が外国でどう扱われるか(その国の法による)、③仲裁判断の承認と執行(仲裁法44条から46条)、④契約の段階でできる備えを、順に整理します。管轄の入口は契約に管轄の定めがないとき、合意の書き方は国際的な管轄の合意の書き方で、仲裁条項は仲裁条項の書き方で扱っています。
なお、外国での執行の手続は、その国の法令と、日本とその国の間の条約や取り決めによって決まります。本ガイドは外国法の内容を判断しませんので、外国で執行できるかどうかの個別の判断には立ち入らず、日本の条文の構造と、契約の設計上の考え方に絞って整理します。
条文このページで扱う条文
- 民事訴訟法118条外国裁判所の確定判決が日本で効力を有する4つの要件
- 民事執行法24条外国裁判所の判決についての執行判決を求める訴え。裁判の当否は調査しない
- 民事執行法22条債務名義の種類。6号は執行判決のある外国判決、6号の2は執行決定のある仲裁判断
- 仲裁法45条仲裁判断は確定判決と同一の効力。ただし民事執行には執行決定が必要。承認の拒否事由
- 仲裁法46条仲裁判断の執行決定の申立て。必要書類、管轄、却下できる場合
- 仲裁法44条仲裁判断の取消しの申立ての事由と期間(3か月)
- 民事訴訟法108条・138条外国における送達、訴状の送達
ここでは条文の要旨のみを示します。
回収までの全体像:判決・判断を得る段階と、執行する段階は別
国際的な債権の回収は、大きく二つの段階に分かれます。第一に、請求を認める判決または仲裁判断を得る段階。第二に、その判決または判断に基づいて、相手の財産を差し押さえ、換価して債権に充てる段階(強制執行)です。第一の段階は、管轄・準拠法・仲裁の条項で設計されます。第二の段階は、相手の財産がどこにあるか、その国の法律と条約の枠組みがどうなっているかで決まります。
国際的な債権回収の段階
第3段階と第4段階の順序は入れ替わることがあります。相手の財産の所在が先に分かっていれば、その国での執行を見込んで、第2段階の設計を決められます。
実務で大切なのは、第5段階(執行)から逆算して、第2段階(管轄・仲裁)の設計を決めることです。契約の時点で、相手の主な財産(預金口座、事業の所在地、売掛金の相手など)がどの国にあるかを見ておくと、どの方法が最も回収に近いかが見えてきます。
外国判決が日本で効力をもつ要件(民事訴訟法118条)
相手が日本にも財産を持っている場合、外国の裁判所で判決を取った相手方が、その判決に基づいて日本で強制執行をしようとすることがあります。また、自社が外国で判決を取り、日本の相手の財産に執行する、という場面もあります。このとき適用されるのが、民事訴訟法118条です。
同条は、外国裁判所の確定判決が日本で効力を有するための要件を、次の4つとして定めています。その全てを具備する場合に限り、効力を有するとされています。
外国裁判所の確定判決の効力の要件(民事訴訟法118条各号)
| 号 | 要件 | 確認される内容 |
|---|---|---|
| 1号 | 法令または条約により外国裁判所の裁判権が認められること | 判決をした外国の裁判所に、国際裁判管轄があったか。日本の管轄の規定を基準に判断される |
| 2号 | 敗訴の被告が、訴訟の開始に必要な呼出しまたは命令の送達(公示送達その他これに類する送達を除く)を受けたこと、または受けなかったが応訴したこと | 訴状が被告に適正に届いたか。公示送達では足りない |
| 3号 | 判決の内容および訴訟手続が日本における公の秩序または善良の風俗に反しないこと | 実体面と手続面の両方が審査される |
| 4号 | 相互の保証があること | 判決をした国で、日本の同種の判決が一定の条件で承認される見込みがあること |
ここで押さえておきたいのは、2号の送達の要件です。海外の相手に対して訴訟を起こすとき、訴状は国境をまたいで届けなければなりません。外国での送達は、民事訴訟法108条に基づき、その国の管轄官庁または駐在する日本の大使、公使、領事に嘱託して行われます。送達が適正に行われなかった判決は、相手国で承認・執行されない可能性があります。送達の実際はトラブルになったときの流れで触れます。
また、外国判決を日本で強制執行するには、118条の要件を満たすだけでは足りず、民事執行法24条に基づく執行判決を得る必要があります。債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所に、執行判決を求める訴えを起こします(24条1項)。裁判所は、裁判の当否を調査しないで執行判決をしなければなりません(24条4項)。つまり、外国判決の内容が正しいかどうかを日本で再び審理するのではなく、要件を満たしているかどうかを審査します。要件を具備しないとき、確定したことが証明されないときは、訴えは却下されます(24条5項)。執行判決が確定すると、それが債務名義(強制執行の根拠)になります(民事執行法22条6号)。
債務名義と執行:強制執行の根拠になる文書の種類
強制執行は、誰でも「相手が払わないから差し押さえる」と言えば始められるものではありません。民事執行法22条は、強制執行を行うための根拠となる文書の種類を債務名義として列挙しています。確定判決、仮執行の宣言を付した判決、公証人が作成した公正証書のうち一定の要件を満たすもの(執行証書)などです。海外取引に関係するものとして、6号は、確定した執行判決のある外国裁判所の判決、6号の2は、確定した執行決定のある仲裁判断を挙げています。
この規定は、国際取引の契約設計に二つの示唆を与えます。第一に、外国の判決も仲裁判断も、日本でそのまま債務名義になるわけではなく、それぞれ執行判決、執行決定という裁判所の手続を経て、はじめて債務名義になります。手続に要する時間と費用を、契約の段階で見込んでおく必要があります。第二に、相手の財産が日本にあるのか外国にあるのかで、必要な債務名義が変わります。日本の財産に執行するなら日本の債務名義、外国の財産に執行するなら、その外国で執行できる文書が要ります。
契約の段階で「どの文書が、どの国で、債務名義の代わりになるか」を意識しておくと、管轄・仲裁の選択の理由が明確になります。たとえば、相手の財産が日本にしかないなら、日本の判決を取れば足ります。相手の財産が複数の国にあるなら、一つの文書で複数の国の手続に進める仲裁判断のほうが、現実的な場合があります。これは優劣の問題ではなく、財産の所在地と手続の組合せの問題です。
日本の判決が外国で効力をもつかは、その国の法による
逆に、日本の裁判所で勝訴判決を得て、相手の財産が外国にある場合はどうでしょうか。日本の判決が外国で効力をもつかどうかは、その外国の法令と、日本との間の条約や取り決めによって決まります。日本の法律で、外国での効力を決めることはできません。
国によっては、日本の判決の承認・執行の条件が厳しく、実質的に新たに訴えを提起しなければならない場合があります。また、判決の承認・執行に、相互の保証や、一定の手続の遵守を求める国もあります。どの国でどのような扱いになるかは、その国の法令の原文と、所管官庁の公表資料で確認が必要で、本ガイドでは個別の国の判断をしません。
ここから導かれる契約設計上の教訓は、次のとおりです。相手の財産が主に外国にあり、その国で日本の判決が承認される見込みが確認できないときは、日本の裁判所の管轄だけに頼らず、仲裁を選ぶ、または相手国の裁判所を管轄にする、という選択肢を検討することです。日本の裁判所に専属的合意管轄を置いても、実際の回収の段階で行き詰まるのであれば、その合意は有事に役に立たない可能性があります。
仲裁判断の承認と執行(仲裁法44条から46条)
仲裁判断は、日本の仲裁法では次のように扱われます。仲裁判断(仲裁地が日本国内にあるかどうかを問わない)は、確定判決と同一の効力を有します。ただし、その仲裁判断に基づいて民事執行をするには、裁判所の執行決定が必要です(仲裁法45条1項)。外国で下された仲裁判断も、この枠組みで日本で承認・執行される点が、外国判決との大きな違いです。外国判決は、民事執行法24条の執行判決を求める「訴え」が必要ですが、仲裁判断は「執行決定の申立て」であり、手続が簡易になっています。
執行決定を求めるときは、仲裁判断書の写し、その写しが原本と同一であることを証明する文書、日本語で作成されたものを除き、仲裁判断書の日本語による翻訳文を提出します(仲裁法46条2項)。ただし、裁判所は、相当と認めるときは、被申立人の意見を聴いて、翻訳文の全部または一部の提出を不要にできるとされています。
申立てを受けた裁判所は、承認の拒否事由があると認める場合に限り、申立てを却下できます(46条7項)。つまり、拒否事由がなければ、裁判所は執行決定をしなければなりません(46条6項)。拒否事由は、仲裁法45条2項に列挙されています。
仲裁判断の承認の拒否事由(仲裁法45条2項)の見取り図
- 仲裁合意が、当事者の行為能力の制限により効力を有しないこと。
- 仲裁合意が、指定された法令(指定がなければ仲裁地の国の法令)によれば効力を有しないこと。
- 当事者が、仲裁人の選任や仲裁手続で必要な通知を受けなかったこと。
- 当事者が、仲裁手続で防御することが不可能であったこと。
- 仲裁判断が、仲裁合意または申立ての範囲を超える事項を判断していること。
- 仲裁廷の構成や仲裁手続が、仲裁地の国の法令または当事者の合意に違反していること。
- 仲裁判断が確定していないこと、または仲裁地の国の裁判機関により取り消されたり効力を停止されたりしたこと。
- 仲裁手続の申立てが、日本の法令によれば、仲裁合意の対象とすることができない紛争に関するものであること。
- 仲裁判断の内容が、日本における公の秩序または善良の風俗に反すること。
このうち、第1号から第7号までは、拒否を求める当事者が事由の存在を証明しなければなりません(45条2項柱書)。第8号と第9号は、裁判所が自ら判断できる事由です。注意したいのは、仲裁判断の内容が間違っているというだけでは、承認の拒否事由にならないことです。仲裁判断の中身の当否は、原則として審査されません。拒否事由は、仲裁手続の公正さと、公序などの限られた範囲に絞られています。
なお、仲裁判断の取消しの申立ては、仲裁地が日本国内にある場合に、仲裁法44条に基づいて行います。取消しの申立ては、仲裁判断書の写しの送付による通知がされた日から3か月を経過したとき、または執行決定が確定したときは、できません(44条2項)。つまり、期間の制限があります。契約書に仲裁条項を置く際は、仲裁地を日本にするか外国にするかで、取消しを争える裁判所が変わる点も、あわせて検討します。
執行決定の申立ての管轄は、仲裁法46条4項に定めがあります。同項は、第5条1項各号の裁判所、請求の目的または差し押さえることができる被申立人の財産の所在地を管轄する地方裁判所、そして、一定の場合の東京地方裁判所および大阪地方裁判所の管轄に専属するとしています。確定した執行決定のある仲裁判断は、債務名義になります(民事執行法22条6号の2)。
相手の財産がどこにあるかで、管轄・仲裁・準拠法の選び方が変わる
ここまでの整理を、相手の財産の所在地を軸にまとめます。以下は一般的な考え方であり、特定の国の法令の内容を判断するものではありません。
財産の所在地別の考え方
相手の財産が主に日本にある
日本の裁判所の管轄を取りやすい
- 日本の裁判所に専属的合意管轄を置いて、日本の判決で日本国内の財産に執行できる
- 日本国内に営業所や財産がある場合は、管轄の規定上も日本の裁判所が管轄を持ちやすい(民事訴訟法3条の3)
- 外国での承認は不要。準拠法も日本法で揃えやすい
相手の財産が主に相手国にある
仲裁、または相手国の裁判所を検討する
- 日本の判決が相手国で承認される見込みを、その国の法令と所管官庁の資料で確認する
- 確認できないときは、仲裁判断の承認・執行の枠組みがある仲裁を検討する
- 相手国の裁判所を管轄にすると、執行は容易だが、自国での手続は負担が大きくなる
相手の財産が複数国に散らばる
仲裁が現実的になりやすい
- 一つの判断を複数国で執行する余地が、仲裁判断のほうが広い場合がある(承認・執行の可否はその国の法による)
- 財産の所在国ごとに、手続と費用を見積もる
- 保全処分(仮差押え)は、財産のある国の裁判所に申し立てる
これらは一般的な考え方です。実際の選択は、取引の規模、相手との力関係、紛争の性質によって変わります。
契約の段階でできる備え
回収の難しさは、契約書の中ですべて解決できるわけではありません。しかし、契約の段階で、紛争の前に回収リスクを減らす方法がいくつかあります。以下は、契約書に書ける、または契約書と同時に整えられる備えの例です。
回収リスクを下げる契約上の備え
- 前払い、または一部前払いとし、未払いの残高を小さく保つ。
- 支払方法を、銀行を介した決済(信用状など)にし、代金の支払を銀行の確認にかからせる。信用状の統一規則などの資料は、国際商業会議所の公表資料で確認が必要。
- 所有権留保の特約を置き、代金の支払まで商品の所有権を売主に留保する(その国で有効に認められるかは、その国の法による)。
- 親会社保証、銀行保証、保険など、相手以外の信用を取り込む。
- 相手の財産の所在国を契約の時点で確認し、その国での執行が見込める管轄または仲裁を選ぶ。
- 契約書に、相手の所在地の変更や、財産の移転を通知させる条項を置く。
- 継続取引では、与信の上限額を決め、上限を超える注文には前払いを求める。
書き方の例(一般的な例) 回収を意識した紛争解決の条項
管轄
理由日本の判決だけでは、外国の財産に執行できない場合があるため。
仲裁
理由仲裁条項があっても、手続が決まらなければ、仲裁判断を得るまでに時間がかかり、回収が遅れる。
保全
理由財産が散逸する前に仮差押えをするには、財産のある国の裁判所を使う必要がある場合があるため。
起きがちなこと
執行まわりで起きがちなこと
- 日本の裁判所に専属的合意管轄を置いたが、相手の財産は全て外国にあり、その国で日本の判決を執行できるか確認していなかった。
- 外国の裁判所で判決を取ったが、被告への送達が適正に行われておらず、日本で承認されない(民事訴訟法118条2号)。
- 仲裁判断を得たが、執行の申立てに必要な翻訳文や証明書の準備に時間がかかった(仲裁法46条2項)。
- 仲裁判断の内容が不服だとして取消しを申し立てようとしたが、通知から3か月を過ぎていた(仲裁法44条2項)。
- 相手の財産がどこにあるか分からず、判決・判断を得てから財産を探し始めたため、財産が移されていた。
- 契約書に、財産の移転を通知させる条項も、保全処分を妨げない旨の条項もなかった。
勝つことと、回収できることを分けて考える。そのために、契約の時点で、相手の財産の所在国、管轄・仲裁の選択、保全の手段をあわせて設計する。これが、国際的な契約書の紛争解決条項を整える際の基本的な考え方です。紛争の全体の流れはトラブルになったときの流れに、代金の支払条件は海外取引の代金の決め方と為替にまとめています。
よくあるご質問
日本で勝訴判決を取れば、海外の相手から回収できますか。
判決を得ることと、回収することは別です。日本の判決が外国で効力をもつかどうかは、その外国の法令と、日本との間の条約や取り決めによります。相手の財産が主に外国にあるときは、その国での承認・執行の見込みを確認する必要があり、確認できないときは仲裁などを検討します。
外国の判決は、日本でそのまま執行できますか。
できません。民事訴訟法118条の4つの要件(外国裁判所の裁判権、適正な送達または応訴、公序に反しないこと、相互の保証)を満たし、さらに民事執行法24条の執行判決を得て、はじめて強制執行ができます。執行判決の手続では、裁判の当否は調査されません。
仲裁判断なら、外国でも日本でも執行できますか。
日本では、仲裁判断は確定判決と同一の効力を有し、裁判所の執行決定を得て民事執行ができます(仲裁法45条・46条)。拒否事由は限られています。外国で執行できるかどうかは、その国の法令と、仲裁判断の承認に関する条約などによります。条約の適用関係は、原文と外務省の資料で確認が必要です。
仲裁判断の内容に不満があるとき、取り消せますか。
仲裁判断の取消しは、仲裁法44条1項に列挙された事由がある場合に限られ、内容の当否は原則として審査されません。取消しの申立ては、仲裁判断書の写しの送付による通知がされた日から3か月を経過したときはできません。
契約書の段階で、回収に備えて何を書いておけばよいですか。
相手の財産の所在国を確認したうえで、管轄または仲裁の条項を選ぶこと、保全処分を妨げない旨を書くこと、前払いや信用状などの支払方法を選ぶこと、財産の移転や所在地の変更を通知させることが、代表的な備えです。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の取引への当てはめは、取引の内容、相手の所在する国、契約の相手が事業者か消費者かによって異なることがあります。外国の法令や外国での手続の内容は、その国の法令と手続によるため、本ガイドでは判断しません。日本の法令の条文は e-Gov法令検索の現行の条文に沿って書いています。参考: e-Gov法令検索 / 外務省 / 経済産業省 / 日本貿易振興機構 / 税関