このページの要点
- 型は、誰が誰に売るか、在庫と代金回収の危険を誰が負うか、相手の行為の責任を誰が負うかで決まる。呼び名では決まらない。
- 代理は本人に直接効力が及ぶ(民法99条1項)。販売店は自分の名と計算で再販する。権限の範囲と、代理人でないことの明記を確かめる。
- 独占・最低購入数量・テリトリーはセットで決める。受動的な販売の扱いと、達成できなかったときの扱いも書く。
- 型ごとに入れるべき条の一覧がある。委託製造は金型・仕様の秘密、使用許諾は許諾の範囲と改良の帰属が核心。
結論:型は「誰が誰に売るか」と「危険を誰が負うか」で選びます
海外の会社との取引には、「売る」「再販してもらう」「代理してもらう」「つくってもらう」「使わせる」という、法律の構造が違う型があります。「販売店」「代理店」「パートナー」「ディストリビューター」といった呼び名は、取引の現場では緩く使われますが、契約書で意味をもつのは呼び名ではなく、その契約が実際に何を定めているかです。誰が誰に商品を売るのか、在庫と代金回収の危険を誰が負うのか、相手の行為の責任を誰が負うのか。この三つに答えられれば、型は決まります。
型を決めるのが、国内の取引よりも海外の取引で重要なのは、型によって必要な条項が違い、さらに管轄・準拠法・規制の問いへの答え方も変わるからです。たとえば、直接売買であれば代金の回収と引渡しの条件が核心ですが、相手に自社商品を再販してもらうなら、再販先、価格、最低購入数量、商標の使い方、競合品の取扱い、契約終了後の在庫の扱いが加わります。相手に顧客を探してもらうだけの代理店なら、相手が結べる契約の範囲、報酬の計算、顧客情報の帰属が核心になります。
このページでは、よく使われる六つの型を並べて違いを確かめ、型ごとの契約書の骨格と、型を混ぜてしまう書き方の問題、独占・最低購入数量・テリトリー(地理的範囲)の入れ方の基本、直接取引から現地法人や合弁へ進むときの考え方を整理します。条文は、民法・商法・会社法の定義にかかわる規定を確認しています。代理店契約の個別の条項(独占の可否、解除、補償など)は、別のガイドで扱っているため、ここでは型を選ぶための対比にとどめます。
六つの型の違いを一覧で確かめる
最初に、六つの型を一つの表で比べます。見るべき列は、「誰が誰に売るか」「在庫と代金の危険」「契約書の核心」です。
海外取引の六つの型の比較
| 型 | 誰が誰に売るか | 在庫と代金の危険 | 契約書の核心 |
|---|---|---|---|
| 直接売買 | 自社が海外の買い手に売る(または海外の売り手から買う) | 売り手は代金回収の危険、買い手は引渡し後の危険を負う | 引渡しの条件、危険の移転の時期、代金・通貨、検査と契約不適合、解除 |
| 販売店(再販) | 自社が相手に売り、相手が自分の名と計算で第三者に再販する | 相手が在庫と再販先の代金回収の危険を負う。自社は相手への代金の回収の危険 | 基本契約と個別契約、販売地域、最低購入数量、商標の使い方、競合品、終了時の在庫 |
| 代理店(代理・媒介) | 自社が顧客と直接契約する。相手は代理または媒介をする | 契約の当事者は自社。相手は報酬を受ける。在庫と代金の危険は自社 | 代理権限の範囲、報酬の計算と支払、顧客情報、競業、終了後の報酬 |
| 委託製造(OEM) | 相手が自社の仕様で製品をつくり、自社に納める | 出来上がった製品の品質と納期の危険は相手。材料・仕様の変更の危険は分担 | 仕様・検査基準、金型や材料の帰属、品質保証、最低発注量、知財と秘密 |
| 使用許諾(ライセンス) | 自社が相手に、商標・技術・著作物などの利用を許す | 売買ではない。許諾の範囲と対価の計算が核心 | 許諾の範囲(地域・期間・独占性)、対価、品質管理、改良の帰属、終了後の扱い |
| 現地法人・合弁 | 海外に自社または共同の法人をつくり、その法人が取引する | 出資の範囲で危険を負う。契約の当事者は法人 | 出資と議決権、役員、利益の分配、撤退と持分の買取り |
この表の六つの型は、互いに排他的ではありません。たとえば、使用許諾を受けた相手が、許諾された商標を付けた製品をつくり、自社に納めるという取引では、使用許諾と委託製造が組み合わさっています。組み合わさること自体は問題ではありません。問題になるのは、一つの契約書の中で、どの部分がどの型の規律に従うのかが分からなくなることです。組み合わせるなら、条の見出しや章立てで、型ごとに規律を分けて書きます。
直接売買と販売店:売るのは誰か、在庫と代金の危険は誰が負うか
直接売買は、民法の売買の典型です。売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生じます(民法第555条)。海外の買い手に商品を売る場合も、海外の売り手から商品を買う場合も、構造は同じです。違いが出るのは、売買そのものの定め方ではなく、引渡しの場所、運送の手配、費用の分担、危険がいつ移るかという、海を越えるための付随的な事項です。
危険の移転については、売主が買主に目的物を引き渡した場合に、引渡し以後に当事者双方の責めに帰することができない事由で目的物が滅失・損傷したときは、買主は、履行の追完・代金の減額・損害賠償の請求・解除ができず、代金の支払も拒めない、という民法の規定があります(民法第567条第1項)。国内の売買では引渡しの時が基準になりますが、海外への輸送では、運送人に渡した時なのか、船積みの時なのか、相手の指定する場所に着いた時なのかを、契約書で決めておかなければ、輸送中の事故の損失を誰が負うかが曖昧になります。国際取引では、貿易条件を定める国際的な規則(国際商業会議所のインコタームズ)が使われることがありますが、規則の名前を一言挙げるだけでは、危険の移転と費用の分担が契約書の他の条項と食い違うことがあります。規則名には版を添え、「FOB(インコタームズ2020)」のように規則名と版を書き、あわせて積地や引渡しの場所を指定します(支払条件との関係は海外取引の代金の決め方と為替で扱います)。
海外の事業者との物品の売買には、日本も締約国である国際物品売買契約に関する国際連合条約(2009年8月1日発効)が、排除しない限り適用されることがあります。その場合、危険の移転や契約不適合の通知は条約の規定によります。条約を適用するか排除するかを、準拠法の条項で明記します(準拠法の選び方)。
販売店は、直接売買を、継続的に、相手の再販を前提に行う型です。自社が相手に商品を売り、相手が自分の名と計算で、第三者に再販します。再販先との契約は相手の契約で、自社は当事者になりません。自社にとって、相手は売買の買主であると同時に、販路を担う事業上のパートナーです。契約書の構造は、全体にかかる基本契約(販売店契約)と、個々の注文ごとの個別契約(発注書・注文請書など)の二層にするのが一般的です。基本契約には、販売地域、最低購入数量、商標の使い方、競合品の取扱い、価格の決め方、再販価格に関する定め、契約の期間と更新、終了のときの在庫の扱いを書き、個別契約で数量・価格・納期を決めます。
再販価格に関する定め(販売店が再販売する価格を決める、拘束するなど)は、日本の独占禁止法や、相手国の競争法の規制に触れることがあります。価格を指示する条項を置く前に、日本の独占禁止法と相手国の競争法の両方について確認が要ります。相手国の競争法の内容は、このガイドでは判断しません。
販売店契約で基本契約と個別契約に書き分けること
基本契約に書く
取引全体の枠組み。注文のたびに変わらない事項
- 販売店として指定する範囲(商品・地域・販売先)
- 最低購入数量と、達成できなかったときの扱い
- 商標・ロゴの使い方と、品質管理
- 競合品の取扱い、再販価格に関する定め
- 期間・更新・終了、終了時の在庫と顧客情報の扱い
個別契約に書く
注文ごとに決める事項
- 品目・数量・単価・総額と通貨
- 引渡しの条件(場所・時期・危険の移転)
- 検査と契約不適合の通知期間
- 支払の時期・方法(前払い・後払い・信用状など)
- 基本契約に反する記載があるときの優先関係
基本契約と個別契約が食い違ったときにどちらが優先するかを、基本契約に書いておきます。優先関係を書かないと、注文書の裏面の条件が基本契約を上書きしたと主張される余地が生じます。
代理店は「代理」か「媒介」か「取次」かで責任が変わる
「代理店」という言葉は、国内の取引でも海外の取引でも、最も意味がぶれやすい呼び名です。ある契約書で「代理店」と書かれていても、その実質が、自社の名で契約を結ぶ権限をもつ「代理」なのか、契約の成立の橋渡しをするだけの「媒介」なのか、相手自身の名で自社の商品を売る「取次」なのか、あるいは、単に自社の商品を買って再販する「販売店」なのかは、書かれた権限と実際の取引の流れから判断されます。この違いは、責任の所在を決めます。
代理は、代理人がその権限内で本人のためにすることを示してした意思表示が、本人に対して直接に効力を生ずる仕組みです(民法第99条第1項)。海外の代理店が、自社のために契約を結ぶ権限をもっているなら、代理店が結んだ契約の効果は自社に及びます。代理店が約束した納期や値引きが、自社を拘束する可能性があるということです。そのため、代理の型を選ぶなら、代理店に与える権限の範囲(値引きの限度、契約できる金額、与信の範囲)を契約書に具体的に書き、範囲を超えた行為は自社を拘束しないことを明記する必要があります。
商法と会社法には、「代理商」の定義があります。商法は、代理商を、商人のためにその平常の営業の部類に属する取引の代理または媒介をする者で、その商人の使用人でないもの、と定義し、取引の代理または媒介をしたときは遅滞なく通知を発する義務を課しています(商法第27条)。会社を相手とする場合の規定は、会社法第16条に同じ構造であります。これらは日本法が準拠法となる場合の規定で、外国の代理店の権利義務が当然にこの規定に従うわけではありません。準拠法をどう選ぶかによって、代理店の地位をめぐる規定の適用関係が変わります(準拠法の選び方で扱います)。
取次の代表は、商法の「問屋」です。問屋は、自己の名をもって他人のために物品の販売または買入れをすることを業とする者です(商法第551条)。自社の計算で、相手が自分の名で第三者と契約する構造です。この型では、第三者との契約の当事者は相手で、自社と第三者の間には直接の契約関係がありません。相手が第三者から代金を回収できなかったときの負担や、相手の倒産の影響が、代理とは違う形で現れます。
「代理」と「販売店(再販)」を取り違えたときに変わること
代理(契約の当事者は自社)
代理店が自社のためにすることを示して契約し、効果が自社に及ぶ。
- 代理店が結んだ契約の履行の責任は自社が負う
- 在庫と代金回収の危険は自社が負い、代理店は報酬を受ける
- 代理権限の範囲を超えた約束の扱いが争点になる
- 顧客との契約関係は自社にあり、顧客情報の帰属も自社
販売店(契約の当事者は相手)
販売店が自分の名と計算で商品を仕入れ、再販する。
- 販売店が結んだ契約の責任は販売店が負う(自社は当事者でない)
- 在庫と再販先の代金回収の危険は販売店が負う
- 自社は販売店への売買の代金を回収する立場
- 最終顧客との契約関係は販売店にあり、顧客情報は販売店に残りやすい
契約書に「代理店」と書いてあっても、実際には買取り再販になっている、またはその逆、ということが起こります。呼び名ではなく、権限・代金の流れ・名義を、契約書の本体で確認します。
委託製造とライセンス:つくらせる型と、使わせる型
委託製造(いわゆるOEM)は、自社の仕様で、相手に製品をつくらせて納めさせる型です。民法の典型契約では、請負(仕事の完成を約し、その結果に報酬を支払うことを約する契約。民法第632条)と、売買(民法第555条)の両方の性質を併せもつ契約として扱われることがあり、どちらの規定が働くかは契約の内容によります。製品を売るという構造が強ければ売買に近く、自社の仕様に従って特別につくらせるという構造が強ければ請負に近づきます。契約書では、どの規律に従わせたいかを意識して、検査、受領、契約不適合、解除の条項を書き分けます。
委託製造の契約書で、国内取引と海外取引の差が出やすい点は、次のとおりです。
確認の問いと理由委託製造の契約書で確かめる問い
仕様と検査の基準は、数値と方法で書かれているか。検査はどこで、誰が行うか。
海外では、納入後に不具合が見つかっても、現物の確認や再検査が難しい。基準が曖昧だと、合格か不合格かの判断で争いになる。
金型・治具・材料・図面は、誰の費用で用意し、誰のものか。契約終了後はどうなるか。
相手の工場にある金型の帰属が不明確だと、取引先を変えたいときに取り戻せない。
相手が自社の仕様を使って、第三者向けに同じものをつくることを禁じているか。
仕様や図面は自社の秘密。目的外の使用と、第三者への製造を禁じる条項がないと、同じものが他社向けに出回る。
納品の遅れや不良のとき、代替品の提供・返金・損害賠償・解除のどれを請求できるか。責任の上限はあるか。
遅れと不良は避けられない。事後の処理を決めておかないと、請求できる範囲が不明確になる。
最低発注量や、年間の発注の見込みに拘束力はあるか。
相手が材料を先に調達する前提のとき、発注が減った場合の負担の分け方を決めておく必要がある。
ライセンス(使用許諾)は、自社が持つ商標、技術、著作物、ノウハウなどを、相手に一定の範囲で使わせる型です。民法には、使用許諾という典型契約の規定がありません。そのため、契約書に書かれた内容が、そのまま当事者の権利義務の中心になります。契約書の核心は、許諾の範囲(地域、期間、独占か非独占か、再許諾を認めるか、対象とする使い方)、対価の計算(一時金、使用量に応じた対価、最低保証)、品質の管理(許諾した商標を使った商品の品質を確認する仕組み)、改良の帰属(相手が改良したときの権利の扱い)、契約終了後の扱い(在庫、使用の停止)です。
知的財産は国ごとに成立し、保護の範囲も国ごとに異なります。日本で保護されている権利が、許諾の対象地域の国でも同じように保護されるとは限りません。許諾の地域を書くときは、その国で権利が存在するのか、どの範囲で保護されるのかを、各国の法令と手続で確認する必要があります。このガイドでは、各国の知的財産法の内容は判断しません。契約書の条項としての成果物の帰属や許諾の範囲は、海外の相手との知的財産・秘密保持・個人データで整理します。
型ごとの契約書の骨格:入れるべき条の一覧
型が決まったら、契約書の骨格を決めます。骨格とは、入れておく条の一覧です。細かい文言を詰める前に、条の一覧が型に合っているかを確かめると、抜けや混ざりが見つかります。次の表は、型ごとに、最低限入れておきたい条の分類を示します。数値や期間は、取引ごとに決めるもので、ここでは示しません。
型ごとの契約書の骨格(条の分類)
| 型 | 中心になる条 | 追加で必要な条 | どの型でも必要な条 |
|---|---|---|---|
| 直接売買 | 目的物・数量・価格、引渡し、検査、契約不適合、代金の支払 | 危険の移転、運送と保険、輸出入の許可と通関の分担 | 管轄・準拠法または仲裁、言語、通知、解除、不可抗力、秘密保持、完全合意 |
| 販売店 | 指定の範囲、基本契約と個別契約、最低購入数量、販売地域、商標 | 競合品の取扱い、再販価格に関する定め、在庫の買戻し、顧客情報 | 同上 |
| 代理店 | 代理・媒介の範囲、権限の限度、報酬の計算、通知義務 | 顧客情報、競業、契約終了後の報酬、代理権限の撤回 | 同上 |
| 委託製造 | 仕様、検査、納期、品質保証、金型・治具・材料 | 仕様の秘密、第三者向け製造の禁止、最低発注量、監査の権利 | 同上 |
| 使用許諾 | 許諾の範囲、対価、品質管理、改良の帰属 | 再許諾、侵害への対応、契約終了後の使用停止 | 同上 |
「どの型でも必要な条」の欄は、型を問わず、海外取引の契約書に共通して加える項目です。管轄・準拠法・仲裁(全体像の五つの問い)、言語と通知、解除、不可抗力、秘密保持、完全合意などが当てはまります。
独占・最低購入数量・テリトリーの入れ方、型を混ぜる問題、現地法人への組み替え
販売店や代理店の契約で、実際に交渉の中心になるのが、独占、最低購入数量、テリトリー(地理的範囲)の三つです。この三つは、組み合わせで意味が決まるので、一つずつではなく、セットで書きます。
独占は、相手に独占的な権利を与えるのであれば、その代わりに、相手に最低購入数量や販売努力の義務を課すのが通常のバランスです。独占の意味は二つに分けて書きます。自社が相手のテリトリー内で他の者に販売させない(自社への制約)のか、自社自身が直接販売することも控えるのか。相手が自社の競合品を扱ってはならない(相手への制約)のか。この区別を書かないと、独占の範囲が争いになります。独占を与えるかどうかが取引の競争法上の問題を生じるかは、別の検討事項で、このガイドでは扱いません。
最低購入数量は、独占の対価として機能します。達成できなかったときの扱い(独占を非独占に切り替える、契約を解除できる、不足分の金額を支払う)を書いておかないと、数量の目標が拘束力のない目安にとどまります。為替や市況の変動、不可抗力で達成できなかった場合の免責も、あらかじめ決めておくと争いを減らせます。
テリトリーは、国名や地域名で書きますが、境目の問題が起こります。相手が指定地域の外に直接販売する(能動的な販売)、指定地域の外の顧客から問い合わせを受けて販売する(受動的な販売)、インターネットで地域外から注文が入る、といった場面です。これらを認めるかどうかを書いておかないと、地域外への販売が契約違反なのかが争いになります。
条項例販売店の指定(非独占の例)
- 甲は、乙に対し、本契約の期間中、別紙記載の商品(以下「本商品」という。)を、別紙記載の地域(以下「本地域」という。)において再販売することを、非独占で認める。
- 甲は、本地域において、第三者に対しても本商品の販売を認めることができる。ただし、甲は、乙が本地域で既に商談を開始し、甲に書面で通知した顧客については、○日間、第三者に対して同一の条件を提示しない。
- 乙は、本地域の外にある者に対し、積極的に本商品の販売の勧誘をしてはならない。
独占とするか非独占とするか、受動的な販売を認めるかは、取引の規模と相手との力関係で決まります。条項は、特定の契約の引用ではなく、書き方の構造を示す例です。数値は「○日」と伏せています。
型を混ぜてしまう問題は、販売店契約に代理の権限が混ざる場面で、特に起こります。たとえば、販売店契約の中に、「乙は、甲の名で顧客と契約を締結することができる」という一文が残っていると、乙の行為が自社に直接効力を及ぼしうる代理の構造になります。再販売を前提とする契約書に、顧客への見積書を自社の名で出す、顧客への保証を自社の名で約束する、といった記載があると、同様の問題が起こります。販売店契約に代理の構造を意図せず混ぜると、自社が相手の約束に拘束され、再販先からの請求を直接受けることになりかねません。
書き方の例(一般的な例) 型が混ざるときの書き方
販売店の権限
理由再販売と代理は別の型。再販売の契約には、相手が自社の代理人でないことを明記して、相手の約束の責任が自社に及ぶ余地を断つ。
保証の約束
理由販売店が顧客に独自の保証を約束すると、自社の責任と誤解される。責任の分かれ目を書く。
顧客情報
理由再販売では顧客情報は相手に残りやすい。帰属と終了後の扱いを書く。
最後に、直接取引から現地法人や合弁に進む場面の考え方です。取引が軌道に乗ると、海外に自社の法人をつくる、現地の企業と共同で法人をつくる、という選択肢が出てきます。この段階では、これまでの契約書(直接売買、販売店、代理店など)が、新しい法人との関係でどうなるかを整理する必要があります。契約の当事者が変わる(自社から現地法人になる)のか、契約は残して新しい契約を重ねるのか、これまでの相手方との契約はどう終わらせるのか、という組み替えの問題です。
取引の発展段階と契約書の組み替え
現地法人や合弁の設立、出資の手続は、設立する国の法令に従います。このガイドでは、その国の会社法や投資規制は判断せず、契約書の組み替えの考え方にとどめます。
組み替えのときに特に注意するのは、これまでの契約書の「契約の譲渡」「当事者の変更」「競業」「独占」の条項です。販売店契約に、相手の同意なしに契約上の地位を第三者に移してはならない、という条項があれば、自社の側で当事者を現地法人に付け替えるときに、相手の同意が要ります。独占を与えている相手の地域に現地法人を設立して販売を始めれば、独占の違反になるおそれがあります。組み替えを見据えて、契約の最初から、当事者の変更を認める条項と、独占の例外(グループ会社の取扱い)を書いておくと、後の負担が軽くなります。
起きがちなこと
起きがちなこと
- 契約書の題は「代理店契約」だが、実際には相手が商品を買い取って再販している。代理の条項と販売店の条項が混ざり、相手の約束の責任が自社に及ぶのかが分からない。
- 「販売店」としたのに、相手が顧客に対して自社の名で見積りや保証を出している。販売店が自社の代理人のように見え、顧客から自社に直接請求が来る。
- 独占を与えたが、最低購入数量を決めなかった。相手が仕入れを増やさず、販路が育たないまま独占だけが続く。
- テリトリーを国名で書いたが、インターネット販売や地域外からの問い合わせの扱いを決めなかった。地域外への販売が契約違反かどうかで争いになる。
- 委託製造で、金型の帰属と契約終了後の扱いを決めていない。取引先を変えたいときに、相手の工場にある金型を取り戻せない。
- 基本契約と個別契約の優先関係を書いていない。注文書の裏面の条件が基本契約を上書きしたと主張される。
- 使用許諾の地域を書いたが、その国で権利が成立しているかを確かめていない。許諾した権利が、そもそもその国で保護されていない。
- 直接取引から現地法人に切り替える際、既存の販売店との契約の独占や譲渡制限を確認していなかった。
型を選ぶ作業は、契約書の最初の一行を書く前に終えておく作業です。型が決まったら、全体像に戻って五つの問いに答え、管轄を決めるなら定めがないときの姿と合意の書き方を読み進めると、契約書の骨格に沿って条項を埋められます。
よくあるご質問
販売店と代理店は、何が違いますか?
販売店は、自社から商品を買い取り、自分の名と計算で第三者に再販する型で、再販先との契約の当事者は販売店です。代理店は、自社のために顧客との契約を代理または媒介する型で、契約の当事者は自社です。代理の場合は、代理人が権限内で本人のためにすることを示してした意思表示が本人に直接効力を生じます(民法第99条第1項)。呼び名ではなく、権限・代金の流れ・名義で判断されるため、契約書の本体で確かめます。
契約書に「代理店」と書いてあれば、代理の契約になりますか?
呼び名だけでは決まりません。契約書で、相手に自社の名で契約を結ぶ権限が与えられているのか、相手が自分の名で買い取って再販しているのかといった実質で判断されます。代理店契約という題でも、中身が買取り再販であれば販売店に近い構造になります。型が混ざっていると、相手の約束の責任が自社に及ぶのかが不明確になるので、権限の範囲と、相手が代理人でないことの明記を確かめます。
独占・最低購入数量・テリトリーは、セットで決めるべきですか?
セットで決めるのが基本です。独占を与える見返りに、最低購入数量や販売努力の義務を課すのが通常のバランスです。最低購入数量を達成できなかったときの扱い(非独占への切替え、解除、不足分の支払)も書いておきます。テリトリーは、地域外への積極的な販売と、地域外からの問い合わせへの対応を書き分けておきます。独占が競争法上の問題を生じるかは別の検討事項で、このガイドでは扱いません。
委託製造の契約は、売買と請負のどちらになりますか?
自社の仕様でつくらせて納めさせる契約は、売買と請負の両方の性質を併せもつ契約として扱われることがあり、どちらの規定が働くかは契約の内容によります(売買は民法第555条、請負は同法第632条)。契約書では、検査、受領、契約不適合、解除について、どの規律に従うかを自分で書き分けておくと、解釈の幅を減らせます。
取引が大きくなったら、現地法人をつくるときに契約書はどうなりますか?
契約の当事者が自社から現地法人に変わる場合は、既存の販売店との契約の譲渡制限や独占の範囲を確認します。設立の手続は、設立する国の法令に従います。組み替えを見据えて、契約書に当事者の変更を認める条項と、独占の例外(グループ会社の取扱い)を書いておくと、あとで相手の同意を得る負担を減らせます。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の取引への当てはめは、取引の内容、相手の所在する国、契約の相手が事業者か消費者かによって異なることがあります。外国の法令や外国での手続の内容は、その国の法令と手続によるため、本ガイドでは判断しません。日本の法令の条文は e-Gov法令検索の現行の条文に沿って書いています。参考: e-Gov法令検索 / 外務省 / 経済産業省 / 日本貿易振興機構 / 税関